なぜ、もやしで復興支援をしようと思ったの?
工場を見学させてもらったあとで、“信州応援もやし”(※正式な製品名ではないが、本稿ではこのように呼称させて頂く)を作ることになった経緯を、岩渕さんにお伺いした。
ーーサラダコスモさんは、岐阜県中津川市の会社ということですが、どんな会社なのでしょう?
当社は、1945(昭和20)年にラムネの製造からはじまった会社です。でも、ラムネは夏の商品なので、冬の副業としてもやしも生産するようになりました。
ーーラムネって瓶に入ったあのラムネのことですか?
そうです。清涼飲料水ですね。でも、次第に大手飲料メーカーに押されて生産数が減っていきます。そんなこともあり、もやしの生産に注力するようになっていきました。それが今から50年くらい前のことですね。
その後も、中津川でもやしの生産を行っていたのですが、だんだん生産場所が手狭となり駒ヶ根市にも工場を作ることになりました。水が良い場所でないと、良いもやしはできないんです。
ーー中央アルプスの地下水を利用しているそうですね。駒ヶ根に工場を作ったのはいつ頃のことでしょう?
1986(昭和61)年です。
ーーでは、およそ35年間、駒ヶ根市でもやしを生産しているということなんですね。それで、今回の“信州応援もやし”ですが、企画を考えたのは岩渕さんなんですか?
はい。そうです。
ーーなぜこうした企画を思い立ったのでしょう?
台風19号が来た際、私は長野県内を営業でまわっていたのですが、いろいろなトラブルがありました。それらに対処しつつ、2日後ぐらいに長野市を訪問した時には、高速道路のインターチェンジ周辺も水に浸かっていました。
そんな状況を目にして、私も長野県筑北村の出身ですし何かできないのか? と考えました。駒ヶ根の工場も長いこと長野県でお世話になってるわけですし・・・何か自社の製品で、復興のお手伝いができないか? と考えたのが今回企画した製品なんです。
ーー岩渕さんは、普段から製品開発を担当しているのでしょうか?
当社では、製品開発を専門にしている部署はありません。私は営業部の所属ですが、営業が製品を提案する場合もあれば、生産現場である工場が提案する場合もあります。もちろんお客さんからの要望をくみ取って製品を作ることもあります。
つまり、「やりたい人がやりたいことをやれる」という雰囲気がある会社なんです。今回の製品は、私が企画立案してデザインなどもすべて一通り手配をして作りました。
ーーこの製品の企画を提案した際、社内からは何か反応はありましたか?「やろうやろう!」みたいな感じだったのでしょうか?
そうですね。特に異論はありませんでした。ただ基本的に手を挙げた人間が一通りやらなければいけないという社風なんで(笑)
ーー(笑)。「言い出した奴がちゃんとやれよ!」みたいな感じですか?
そうなんです(笑)。それで、この工場で生産している製品である「信州根取りもやし」が1日6,000パックくらい全国に出荷されているので、そのパッケージを利用して長野県の魅力を発信すれば、毎日約6,000人にアピールできると思いつきました。
ーーつまり、「信州根取りもやし」のパッケージを変更して“信州応援もやし”を作ろうと思ったわけですね?
そうです。もともとは、工場が立地するる駒ヶ根市のシンボル・木曽駒ヶ岳の写真を使用したパッケージだったのですが、そのスペースを利用して長野県内の6か所を紹介することにしました。
ーーなるほど。ちなみに今回パッケージで採用した写真(場所)は、どのような基準で選んだのでしょう?
できるだけ被災したエリアを入れたいな。とは思っていたのですが、バランスも考えて大きな被害がなかった場所も含まれています。有名な観光地というよりも、そこまで広く知られていないけれど観光客にオススメできる場所をピックアップしたつもりです。
・長野市・戸隠高原のスノーシュー
・千曲市・あんずの里
・千曲市・姨捨の棚田
・諏訪市・立石公園から見た諏訪湖
・駒ヶ根市・木曽駒ヶ岳の千畳敷カール
ーーなるほど。そういう視点で選んだんですね。
パッケージの裏面に掲載した、もう一つのコンテンツである「信州うまいもの辞典」も、あまりメジャーすぎない食べ物をチョイスするようにしました。改めて長野県には、実はこんな場所やおいしいものがあるよ! ということを紹介したつもりです。
・ジンギスカン
・おやき
・なめたけ
・山賊焼き
・ソースカツ丼
ーーうまいもの辞典の項目は、具体的にはどのように決めたのでしょう?
私の独断です(笑)
ーー(笑)。でも、こういう情報は、他県の知らない人が見たらとても面白いですよね。
お客さんや取引先の反応とこれからの指針
ーー発売後、お客さんからは何か反応はありましたか?
まだ発売したばかりということもあり、ちょっとわからないのですが、取引先の方からは非常に良いアイデアだということでご好評を頂いております。この製品がきっかけでこれまで出荷していなかったお店にも納入して頂いた例もあります。
ーーちなみに、この6種類のパッケージは同時発売なんですか?
同時発売ですが、1日あたり2種類が出荷されます。つまり店頭では3日間で6種類のパッケージが陳列されるという感じです。
ーー長野県内ではどこで買えるのでしょう?
スーパーだとイオンさんや、Aコープさん、原信さん・・・駒ヶ根市の周辺ではニシザワ(ベルシャイン)さんなどですね。
ーー長野県外ではどの地域で販売されるのでしょう?
中京地区や、関東地区、甲信越地区がメインです。あと、関西地区のお取引先にも積極的に紹介させて頂いています。
ーーアルクマくんともコラボしていますが、これは長野県に話を持って行ったんですか?
そうですね。快諾して頂きました。
ーーちょうどゆるキャラグランプリで優勝したタイミングでしたよね。
それも、あったので入れなければ! と思ったというのもあります(笑)
ーーパッケージの裏に記載されている「ONE NAGANO」は、長野県による復興キャンペーンのキャッチフレーズですよね?
そうです。長野県の観光課の方とも相談させて頂いて、キャッチフレーズとロゴも入れさせて頂くことにしました。また、この製品の売り上げの一部は、長野県を通して寄付させて頂くことになっています。
ーー突っ込んだ質問で恐縮ですが、売り上げの一部を寄付するとのこと。どれくらいの金額になるんですか?
まだ、具体的には決まってませんが・・・もやし自体がそれほど高額な製品ではないので、たぶん売り上げの数パーセントぐらいですね。
ーー素晴らしい取り組みだと思います。
ありがとうございます。直接的に「大変だけどがんばろう!」とアピールするよりも・・・風評被害なども懸念されますし・・・本当に影ながら応援させて頂ければと考えています。
ーー台風19号は、ほとんどの長野県の人にとって、生まれてはじめて経験する大規模な洪水災害だったと思います。また、今後も決して油断できないと思いますが、こうした状況の中で野菜を作り続ける会社としてのポリシーがありましたら教えてください。
もやしは存在しないと困る野菜なんです。単価も安くて・・・長野県では一袋20円くらいから買えますが、 もやしがお店に並ばないと困るお客さんがたくさんいます。大げさかもしれませんが、もやしは“インフラ的な野菜”だと考えているんです。
最近は特に異常気象などが原因で、野菜の値段が変動しやすいということもあります。うちの製品・・・もやしや、かいわれ大根などのスプラウトも作っていますが、これらは1年中、安定的に生産でき、値段も一定で品質のブレもあまりないので、これからますます社会的に必要になっていく野菜だと思っています。
だからこそ、我々としてはこれらの製品は災害が発生したとしても、できる限りお客様に確実に届けなければいけない・・・絶対に欠品させてはいけないという気持ちを持っています。
さらに近年では、よりシリアスな災害が発生した場合についての対応も考えなければいけません。想定外のことが起こったとしても、しっかりと商品を提供できるような体制が必要だと認識しています。
ーーそれは可能なのでしょうか?
当社の場合は、全国に工場を分散させており一つの工場が操業できなくなっても他の工場でカバーできるという体制をとっています。今後は、さらに物流面で何かあった場合に備えて、従来とは異なるプランに、スムーズに切り替えることができるような体制を作り上げていきたいと考えています。
ーー(ここまで沈黙していた)大石さんにもお聞きしたいのですが。実際に工場で生産する立場として何か思うところはありますか?
大石:私は、現場の人間なので1本でも良い状態のもやしを作りたいと思っています。先ほども岩渕が申しましたが、もやしは値段が安いからこそいろいろなお客さんに手にとってもらえます。
それが、私がもやしを作りたいと思った理由でもあり、この会社に就職したきっかけの一つなんです。なので、より良い品質の製品を1パックでも多く作り続け、お客さんにおいしいと言ってもらうことが現場の人間として目指すべきところなのかな? と考えています。
ーーすごいです! 岩渕さんは、個人的に何か思うところはありますか?
現在、私は岐阜県に住んでいますが・・・長野県は出身地であり、高校を卒業するまでずっと暮らしていた場所です。なので、 “信州応援もやし”は、半分くらい個人的な思い入れで作らせてもらったと思っています(笑)
ーー(笑)はい。
作ったからにはしっかりとお客さんに紹介させて頂いて、今後もこの製品をしっかりと全国にアピールしていきたいです。長野県の復興に・・・実際に観光客が増えていくような形に繋げていかなければいけないと思っています。
ーー自分で企画した製品を、営業として自ら最前線で売り込んでいくということですね?(笑)
はい。自分で作ったもやしを自分で売っていきます!(笑)
終わりに
岩渕さんが、長野県ともやしに愛着をもっていたからこそ生まれた“信州応援もやし”
その企画は実現し、大石さんをはじめとする現場の人たちが責任をもってクオリティーの高い製品として生産している。
そして、できあがった製品は岩渕さんたち営業スタッフが総力をあげて売り込んでいく。長野県の復興に思いを馳せながら・・・本当にすごい取り組みだと思った。
取材協力
- 株式会社サラダコスモ
住所:岐阜県中津川市千旦林1-15
電話番号:0573-66-5111 - 株式会社サラダコスモ・信州工場
住所:長野県駒ヶ根市赤穂330-33
電話番号:0265-83-7211