諏訪の名産品「寒天」の伝統を守る戦い!イリセンの「寒天狩り」ってなに?

「寒天狩り」の会場にて茅野さんをパチリ

ここで質問。あなたは寒天についてどれだけ知っているだろうか?

「ゼリーの素でしょ?」「海藻を原料とした健康食品!」正解。そうそう。その通り。では、次の質問。

寒天は形状によって大きく3つに区別できるが、それらの名称をすべてを答えよ。

・・・質問に答えられただろうか? 答えは「棒寒天」と「糸寒天」そして「粉(工業)寒天」だ。ちなみに筆者はまったく知らなかった。

広大な土地に広げられた寒天

現在、寒天は全国的には健康食品として認知されているのではないだろうか? 昨今の健康志向の高まりを背景に何度かブームになったこともある。

そして、長野県にゆかりのある方なら、その存在をもっと身近に感じているはずだ。地方紙やローカルテレビ局で、頻繁に宣伝を見かけるということもあるし、もしかしたら学生時代に「長野県茅野市を中心とした諏訪地域の名産品」と、授業で習ったかもしれない。

そんな、諏訪地域の寒天とは「棒寒天」のことだ。文字通りの形状を持つ天然素材、天然製法にこだわった名産品であり、“棒状に固めること”を至上命題として200年あまりの伝統を繋いできた。

諏訪地域の名産品「棒寒天」

しかし、今、さまざまな要因でその伝統が揺らいできているという。

そんな状況に危機感をもって、さまざまな取り組みを行っているのが、地元の寒天製造業者である有限会社イリセンの茅野文法(ちの・ふみのり)さんだ。

茅野さんは、寒天とふれあうことができるユニークなイベント「寒天狩り」や、名産品である諏訪の棒寒天にこだわりつつも、これまで誰もやってこなかった方法で、寒天に新たな価値を見い出すべく奮闘する、諏訪・寒天業界の風雲児だ。

寒天の製造方法について説明する茅野さん

しかし、改めて考えてみると筆者は寒天のことをほとんど何も知らない。もしかしたら、同じように感じている方も多いのではないだろうか?

というわけで、長野県茅野市にあるイリセンの寒天生産工場=「寒天狩り」の会場で、茅野さんに、寒天について根掘り葉掘りお話を伺うことにした。

まずは基礎知識!なぜ“海なし県”の長野県で寒天が名産品になった?

ーーまずは寒天についておさらいをさせてください。そもそも寒天とは何ですか? そしてなぜ諏訪地域の名産品になったのでしょう?

寒天の発祥は、京都の伏見あたりだとされています。江戸時代に、ところてんを庭に捨てたところ、冬の寒さによって凍って干からびてしまった。それを試しに煮てからさましてみると寒天になったと伝えられています。

まずは寒天の“いろは”を茅野さんに教えていただく

諏訪に伝わってからは、約200年ほどの歴史があるそうです。当時、信州では冬になると仕事が少なく、出稼ぎに出る人も多かった。そして、出稼ぎ先である京都で寒天の作り方を学び、諏訪に戻って作ってみると、偶然にも製造に適した気候で、品質の高い寒天を作ることができた。そこからこの地が産地として注目されるようになったそうです。

ーー江戸時代には寒天はどのように使われていたのですか?

やはりゼリーみたいな使い方です。さまざまな食品を寒天で固める「天寄せ(てんよせ※諏訪地域の郷土料理)」ですね。

諏訪地域の郷土料理「天寄せ」(提供:茅野さん)

ーーどのように、寒天の生産が広がっていったのでしょう?

昔は農家の副業として生産する人が多かったそうです。冬になると、田んぼが空き地になるので、それを活かす形ではじまったと言われています。当時は、250軒くらいの農家が生産していたため、冬になると見渡す限りの田んぼに寒天が干されていたそうです。

ーー諏訪の寒天の特徴って何かあるんですか?

寒天を大きく3つに分けると、諏訪地域で作られている「棒寒天」、岐阜県が名産の「糸寒天」、あと、世界中のどこでも工場があれば作ることができる「粉末(工業)寒天(以下、粉末寒天)」に分類できます。

イリセンの「棒寒天」

棒寒天は諏訪地域の特産品に指定されていますが、実は、形だけの問題なんです。棒状に固められたものが棒寒天で、糸寒天は糸状、粉末寒天は粉末状ということになります。3種類ある中でも、最も作ることが難しいのが、形が一番大きい棒寒天なんです。

ーー製造工程で重要なポイントって何かありますか?

やはり気候です。寒天の製造は自然相手の勝負で、棒寒天の形状を維持するためには寒暖差が必要です。なぜなら、寒天には凍らせてから乾かすという工程が必須だからです。

でも、急激に乾かすと潰れてしまうし、凍らせるのもマイナス8℃ほどの気温で、3日間ほど経たないと芯まで凍りません。そのような条件の中で、凍った寒天が、次の日に太陽に当たってだんだん溶けて、また凍って、また溶けて・・・そのようなプロセスを繰り返していくわけです。完成までには2週間ほどかかります。

ーーなるほど。本当に気候が大切だし時間がかかるんですね。

そうです。諏訪地域は寒暖差が激しい土地で・・・つまり、夜の冷え込みはあるけど昼間は暖かく、晴天率もある程度高い。そして、雪もそれほど多くない。寒天の製造にはうってつけの気候なんです。

また、水を大量に使いますが、諏訪の地下水は不純物が少ないと言われており、これもまた寒天作りには欠かせません。こういった好条件が重なったこともあり、生産が盛んになったのだと思います。

蓼科山麓のおいしい水と、きれいな空気で作られるイリセンの寒天

ーー寒天の原料とはどんなものなのですか?

おもに天草(てんぐさ)と呼ばれる海藻を使用します。海藻の粘液質を凍結させてから乾燥させると寒天になるんです。国内産のものもありますが、現在ではアフリカなど世界中のものを使用しています。

ーー生産期間は?

だいたい12月上旬から、2月半ばくらいまでです。15年ほど前までは3月いっぱいまで生産できましたが、温暖化の影響もあって年々短くなってきています。そういう意味では、安定しない職業かもしれません。

寒天の原材料となる天草などの海藻類

ーー温暖化が寒天の製造に影響を与えているんですね。

棒寒天だから特に厳しいということもあるかもしれません。その点、糸寒天ならば凍りやすいし、潰れるというリスクがないんですよ。

それに対して、棒寒天は1万本作っても、だいたい3千本がダメになります。つまり、棒状にならないものが3割出るわけです。

ーー棒状にならないと、いわゆる“規格外”の商品になってしまうのですか?

その通りです。私はそこを一番考えなければいけないと思っています。

 

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