諏訪の名産品「寒天」の伝統を守る戦い!イリセンの「寒天狩り」ってなに?

“規格外”という名の「新製品」

ーー棒寒天とは違う規格の製品を作るということですね?

そうです。まずは原料となる天草の使用量を変えるところからスタートしました。棒寒天を1日1万本作るためには、天草などの原料を300kgくらい使います。でも、形を小さくすれば必要な天草も少なくて済むわけです。

そして、寒天をそのまま食べてもらうことも考えました。味噌汁やスープに入れて寒天を食べてもらうのです。「寒天そのものを食べる」というのは、昔の人からすると本来の寒天の使い方ではないんですよ。だから「それは違う!」とよく言われます(笑)

ーー(笑)

あと、ごはんを炊く時にも使うことができます。この場合は結局、寒天は溶けるんですが・・・

ごはんと味噌汁用に作った商品「角寒天」

ーーごはんを炊く時に使うというのは?

寒天とお米を一緒に炊くと、寒天がお米にまとわりつきます。炊き上がったごはんからは、食物繊維が取れるし、ごはんにもツヤが出て、しかも糖質を抑えるという働きもあるんです。

今は、美容や健康のために食物繊維を気にされる方が多いんですよね。そういった方に、寒天をスープの“具のひとつ”として販売することによって、「あ! 今日も味噌汁に寒天を1個入れなきゃ」というような需要を作り出すことができました。

ーーまさに新しい寒天の活用方法ですね。

はい。私はマルシェも運営していますが、そこにいらっしゃるお客さんたちが、実際に寒天をどのように食べているのか調査もはじめました。すると、棒寒天で作る定番の郷土料理“天寄せ”に使うという需要が少なくなってきていることもわかったんです。

上諏訪の大手町で開催されている「大手マルシェ」(提供:茅野さん)

そうなるとさらに「棒寒天じゃなくてもいいよね」となるじゃないですか? でも、ゼリーを作ったり、溶かすことだけを考えると粉寒天が優位です。伊那食品工業さん(※「かんてんぱぱ」ブランドで有名な大手寒天メーカー)という、大きな会社があるわけですし。

だから、小さくても形がある寒天を作らなければいけない。そして、去年「かんた」という名前の小さい寒天を発売しました。

この商品は、意図的に作った「食べる寒天」ということが評価されて、諏訪市の推奨品になっています。パッケージにはわかりやすく「スープに入れる」とだけ書いています。

スープに入れてとろ〜り美味い!と書かれた「かんた」

ーーこのサイズだと、会社に持って行って弁当を食べる時に、味噌汁やスープに入れようかな? と思えるサイズですよね。

そうなんですよ。でも、そういう風に使うことができるというイメージが、古くからの寒天屋さんたちには、たぶんあまりなくて・・・でも、売ってみたら意外に売れた。ほんと、お土産用として10個とか20個まとめ買いしてくれるお客さんがいたりして。

寒天は諏訪地域の名産品として正しくアピールされている?

ーー記事の冒頭で、気候変動によって寒天作りも変化しているとのことでしたが?

先ほども言ったとおり生産期間が短くなっています。だから私は今では、一番冷え込みのある好条件の時期に棒寒天を作るようにしています。そして、天候が怪しい12月には意図的に小さい寒天を作るわけです。

四角い形になった生寒天を“干し場”に運んで並べる

それだけのことですが、人件費が違ってきます。原料代は上がり続けていますが、このやり方で商品の値上げをせずに利益を得ることができています。

要するに作り手の側からすると、寒天を小さいサイズにすることですべてが変わるんですよ天候不順に左右されない。そして形が崩れても商品になる。

棒寒天をきれいに並べるための道具

ーーでも、棒寒天作りはもう200年くらい続いている伝統ですよね?

昔は、原料の天草が本当に安かったんです。でも、今では価格が高騰して必要な量を確保することすら難しくなってきています。そして、天草は今後もさらに収穫量が減っていくといわれています。

もちろん、私たちも棒寒天は作り続けます。でも、全部が棒寒天でなくてもいいのでは? と思っているわけです。あと、弊社はそれほど大きなスーパーなどには卸していないので、こういった取り組みができるということもあります。

生寒天を一晩凍らせるとこんな感じに

全国チェーンのスーパーに下ろしている会社さんだと、必要な量を供給できないと責任問題にもなってくるので・・・契約がありますから。気候が思わしくなくて、うまく作れるかわからない状況下でも作るしかないみたいな・・・危ない経営なんですよね。

あと、「諏訪地域の寒天とは棒寒天のこと」と決まっていますしね。でも、もう資金に余裕がある生産者しか残ってないんです。何千万円というお金を最初に投資しなければ、天草も買えないし・・・働く人も20人は雇っていますから。だからみんな潰れていくんです。

さらに凍らせて、溶かして・・・を繰り返していくと、寒天は白くなっていく

ーー茅野さんの考え方は、棒寒天をフラッグシップ商品にして、ほかにも商品展開を考えましょうってことですよね?

そうです。伝統的な棒寒天と新しい商品は両立できると思っています。そして、今の時代はネットがあるじゃないですか? 私はどちらかというと、寒天は全国にばらまくような商品には向いてないんじゃないかなと思うんですよ。

この先、生産量はさらに落ちていくでしょうし、冬しか作れないものなので。これまでも、テレビ番組などで取り上げられると、すぐに売り切れてしまって・・・でも、それだと毎年買ってくださるお客さんに迷惑がかかってしまうんですよ。だから、ネットも活用しつつ直販するのが一番いいと思っています。

膨大な数の棒寒天が干されていた

一応パッケージには賞味期限が表記されていますが、実際には寒天に賞味期限はありません。賞味期限がなく、この土地でしか作れない健康食材・・・そんな条件の良い商品を、なぜ安く卸さなきゃいけないのか? と思います。

あとは、諏訪に遊びに来た方が、「おみやげに寒天を買っていく」という流れを作り出したいですね。

ーーそうなんですよね。寒天は諏訪の名物だと知っていても、どこで購入すればいいのか、どこで食べられるのかがよくわからないし、イメージもぼんやりしている感じなんです。

そこなんですよね。そして、諏訪の寒天を知らない方もまだ多いと思います。でも、私は知らない方がいる=可能性があると思っているんですよ。知られててこの状態だったらヤバいですけど(笑)

飲食店だったり寒天専門店があればいいなと思います。料理にしてしまえば、規格外の寒天を活かすこともできますし、天寄せという郷土料理をアピールできる場所にもなりますしね。

本当は10年ぐらい前から、そういう店が存在するべきだったと思います。だって、安曇野(長野県安曇野市)では、名物のわさびを買ったり、食べることができるのは当たり前のことじゃないですか?

仕上げの段階に入った棒寒天

ーーそうですね。

それで、「なんとかならないか?」と考えて、寒天の生産期に注目したわけです。作りたての寒天はやはり新鮮ですし、プリプリとしてるんですよ。つまり、作りたての寒天を生産地で買えるようにしようと「寒天狩り」というイベントをはじめたわけです。

 

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