永遠の問題が存在する。“たまごとじ”を選択するのか、それとも“ソース”なのか?
もちろんカツ丼の話である。
この問題は実は非常に根深い。つまり、住んでいる場所などによっては選択の余地が無い場合もままあるからだ。
無論、世の中にあるカツ丼は、たまごとじとソースだけでは無い。新潟のタレカツや、埼玉のわらじカツ、福井のデミカツなど非常に多彩であることは承知しているが、あえてここではふれない。
個人的な話になるが、筆者が物心がついてはじめて食べたのはソースカツ丼だ(その理由はやはり生まれた場所に起因すると思われる)
ちょっと、当時の情景を振り返ってみよう。
その昔、“ドライブイン”という飲食施設がメジャーな時代があった。それらの多くは幹線道路沿いにあり、文字通り車での来店を前提とした店舗だ。
今思えばモータリゼーションの到来と共に登場した店舗形態だといえる(以前取り上げた、横川駅の名物駅弁『峠の釜めし』で有名な“おぎのや”も、駅の売店からドライブイン業態へ移行している)
当時、筆者の実家の近所にもドライブインがあった。そこで食べたのがはじめてのソースカツ丼で、現在まで“三つ子の魂百まで”的にその味が刷り込まれている。いわば“オリジナルのカツ丼”というべき存在だ。
今考えると、カツはかなりペラペラだった気もするが、器の蓋を取ると鼻をくすぐるかぐわしい香りが立ち上り、千切りキャベツとご飯にはソースがじんわりと染みこんでおり、えもいわれぬ味覚を醸し出していた。
この“塚本ドライブイン”のソースカツ丼こそが、筆者とカツ丼との蜜月のはじまりだが、その後、風雲急を告げる事件が発生する。当時子供であった筆者が、遂に“たまごとじ”カツ丼の存在に気がついたのだ。
知らない町のはじめて入る店でのことだった。いつものようにカツ丼を注文したものの・・・そのまったく異なる出で立ちに絶句してしまう。
「・・・キミは誰?」
そして、その瞬間から苦悩の歴史がスタートすることとなる。
あなたは言うかもしれない「長野県出身者だったら、当然ソースカツ丼でしょ?」と・・・ふっ。そんなに簡単なことなら、ここでくどくど書いたりしていない。
ソースカツ丼の素晴らしさについては、かつての記事にも書いたことがあるので、今回は、“たまごとじ”カツ丼のすごさについても端的に書いてみようと思う。今回注目したのはその作り方だ。
まずは豚肉を溶きたまごに潜らせ、衣をまとわせる。そして、油の中に投入してこんがりきつね色に揚げる・・・この時点で、じゅうぶんうまそうだ(というか料理として成立する)。・・・・しかし、ここで終わらないのが出色なのである。
その揚げたてサクサクのカツを、タマネギが入ったツユに投入して、わざわざ“煮る”のだ。そして最後にたまごでとじる。これが“たまごとじ”カツ丼の正体だ。しかし・・・改めて文字に起こしてみると、なんと手の込んだ贅沢な食べ物なのだろう!
・・・前置きがとてつもなく長くなってしまったが、カツ丼に対する筆者の苦悩をわかってもらえたら幸いだ。つまり簡単に言っちゃうと「どっちも好きで。選べない」のである。
しかし、今回この悩みを根源的に解決できるかもしれないという情報を得た!
というわけで、奥信濃・湯田中温泉へと向かおう。