長野県下諏訪町「Layer Architects」と「Bappa 4.5」が提案する“古くて新しい暮らし”

“ヒューマンスケール”である下諏訪町から

宮澤さんが、下諏訪町で現在の住居を選択した理由には、諏訪大社下社の秋宮が近くにあるということが大きかったそうだが、他にも理由があるそうだ。

諏訪大社のお札と破魔矢が神棚に祀られていた

「僕は、東京でいうと谷中とか根津、月島、佃島といった下町が好きで、なぜ好きかというと、ヒューマンスケールであること。つまり、街の規模が“歩いてちょうどいい空間”になっているんです」。下諏訪町はそういう意味でバッチリだったそうだ。

建築士としての仕事について伺うと、「引っ越してきたばかりのころは何のツテもないので、下請けみたいなことも当然やりますし、自ら営業もするわけです」

「そういう中でお客さんに『この建物は、こういう使い方ができたらいいですよね』という感じに提案してきました」ということだが、世の中の流れが大きく変わってきているとも感じるそうだ。

玄関脇の黒板には新入荷した生活雑貨のお知らせが

「古材や古い道具リユースすることで注目を集めている『リビルディングセンタージャパン』も、諏訪で活動していますし、そうした人達の動きにも注目しています」とのこと。

「でも、古い建物に抵抗があって、壊して新しくしたいというお客さんが圧倒的に多いんですよね(笑)。だから、この事務所とギャラリーの内装は、色を塗ったりクロスを貼ったりしていません」とのことだが、どういうことなのだろう?

ギャラリーショップから事務所側を撮影。壁にはクロスは貼られていない

お客さんが見てわかりやすいように、メリハリをつけるためなんです。色を塗ったり、クロスを貼る前の壁の状態を見てもらうことができますし・・・実物を見せるとわかりやすいじゃないですか?」

「だから、この場所は『こんな方法もあるよ』ということを、お客さんに見てもらい知ってもらうための“展示場”であり、さまざまな工法を試す“実験施設”でもあるんです」ということだ。

つまり、興味のある人がこの場所に来れば「実際に築40年の家が今ではこうなっているよ」と見てもらうこともできるし、居住空間に合わせた“必要な道具”もギャラリーには置いてあるというわけだ。

「嬉しかったのは、去年この場所を地区の評議会の会場として使ってもらったこと。そんな風に、だんだん地域に開かれた場所になっていくと面白いなと思っています」と宮澤さん。

地元で開催されるイベントなどのチラシも置かれていた

「今まで、住宅は個人の所有物であるという意識が強かったと思うんですけど、その一部を街の中に開いていくことによって、地域との繋がりは強くなると思うんです」

「僕は、特にこの場所では新参者なので、より繋がりを必要としているし・・・また、僕だけではなくて、地域のコミュニケーション力が希薄になった現在、“自分の空間だけど、他人が気軽に入ってこれるスペース”という考え方はいいんじゃないかな? と思っています」と語ってくれた。

終わりに

取材後、“ヒューマンスケール”であるという下諏訪町を宮澤さんが歩いて案内してくれた。

確かに、歩いていて気持ちの良い町で、それでいて必要な施設やお店も集約されており、多くの移住者が後を絶たないというのも頷ける。

下諏訪町が運営する、移住交流スペース 「mee mee center Sumeba」も商店街の中にあって、ぶらりと立ち寄ることができた。

この場所は、下諏訪町に遊びに来た人や、住んでみたい人と地元の人をつなぐ場所とのことで、移住についての情報や、町の魅力、観光情報、空き家情報など、”地元の人に聞きたいこと”を聞くことができる交流の場となっているそうだ。

「mee mee center Sumeba」に「ホシスメバ」の案内が貼ってあった

宮澤さんも、関わっているという「ホシスメバ」というプロジェクトにも興味を持った。

これは、下諏訪町が取得した労災リハビリテーション施設跡に、起業、創業、移住定住推進の場所として、コミュニティを構築していくというプロジェクト。

ユニークなのは、具体的な内容に関しては、将来柔軟に変えていくことができるというスタンスだ。

宮澤さんが「mee mee center Sumeba」のスタッフの方と親しげに話している姿を見ながら、取材時に彼が、“自分の空間だけど、他人が気軽に入ってこれるスペース”というフレーズを口にしていたことをを思い返していた。

取材協力

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