人口減少と大都市への一極集中が進む中、あえて“大都市ではない場所を自ら見出し、好きなことに生きる人たち”がいる。彼ら彼女らはなぜその地を選び、どのような暮らしで生計を立てているのか知りたい。というわけで連載『好きな場所で生きる』スタート。
古民家をリノベーションした“別所ヴィレッジ”
長野県上田市の別所温泉は、日本最古の温泉の1つともいわれ、歴史上の人物や近代の文豪たちもその“湯”に魅せられ、多くの足跡(そくせき)を残す場所だ。
そんな別所温泉のメインストリートに、2017(平成29)年5月にオープンしたのが、古民家をリノベーション(改装)したシェアハウス“別所ヴィレッジ”だ。
シェアハウスとは一軒の家を複数の人で共有することを意味し、近年、全国的に普及した住居形態だ。“別所ヴィレッジ”には住居のほか、テナントやオフィスも入居する。
また、“お試し移住部屋”と呼ぶスペースを確保しており、そこは文字通り「移住を試す」ことができるというユニークな空間だ。「ちょっと引っ越ししてみない?」というのがコンセプト。
“別所ヴィレッジ”を立ち上げたのは、松江朋子(まつえ・ともこ)さん。富山県高岡市の出身で、1969(昭和44)年生まれ。職業は一級建築士の資格を持つ設計士で、インテリアコーディネーターでもある。
もともと、別所温泉には縁もゆかりもなかったという松江さんだが、なぜこの地でシェアハウスを始めることになったのだろうか?
“アート系”だった学生時代
「奈良や鎌倉にも大仏はあるけど、高岡の大仏が一番“シュッ”としててイケメンだと思うんですよね」
こう話す松江さんは、父親が美術教師だったこともあり、子供の頃から絵を描くのが大好きだったという。
実家では祖父母、両親、兄の6人家族で暮らしていた。高校時代は洋服を作ることが好きだったそうで、進路の決定にあたっては「洋服の専門学校に進学したかったんですけど、両親にダメ出しされて、美大を目指すことにしました(笑)」と笑う。
「性格的には・・・個性的な方ではあったと思う。あんまり人と交わらないというか(笑)。マニア系(アート系)だったかな? 結構ずっと反抗期でした(笑)」と話すが、大学は「受からないかも?」と思いつつも、結果は現役合格。金沢美術工芸大学の商業デザイン科に進む。
大学に合格したことで、金沢で初めて一人暮らしを始める。「楽しかった。街もきれいだし、高岡に比べると都会ですしね」と、充実した大学生活を過ごしたということだ。
そして、子供の頃から描いてきた絵については、「美大に入ってまわりの人が描く絵がうますぎて、自分では“ピタッ”と描かなくなりました」という。
記事を読み進めるとおわかり頂けると思うが、松江さんの“見切り”は時に極めて早い。
就職先は東京の玩具メーカー
「大学を出て、東京の玩具メーカーに就職しました。モビルスーツのプラモデルで有名な会社です(笑)。アニメキャラクターのシャンプーなどを扱う事業部に配属されたのですが、特にキャラクターに愛着がないので『こんな会社だったんだ・・・』って入社してから思いました(笑)」
その後、松江さんはプラモデルを扱う事業部に異動するが、ここで大ヒット作を手がけることになる。庵野秀明監督の、社会現象にもなったアニメのプラモデルだ。
「手がけたのは、まだ売れるかどうかもわからない頃だったのですが、当たっちゃって。すごい勢いで売れましたね。私の役割としては、各媒体へどのように露出するのか? パッケージや販売戦略、どのキャラクターを商品化するかなど多岐に渡りました」
大ヒット作を手がけたということで、昇進しなかったのかと聞くと「いやー上司に楯突いていたので一切何もなかったです。表彰すらされなかった(笑)」と笑う。
「でも、その会社では昇進すると、売り上げや部下の管理だけを任されるようになるんです。それが嫌で、ずっと歳をとっても続けることができる仕事をしたいと思いました。で、考えて、インテリアコーディネーターの資格を取ることにしたんです。それで、在社中からスクールに通い始めました」ということなのだが、時間的にそんな余裕があったのだろうか?
「ね? よくやったと思います。それで、資格をとってから会社をやめました。結局その会社には7年間在籍しました」とのことだ。