なぜ落語家を呼ぶことになった?
大盛況のうちに落語会も終わり、撤収作業も完了。そこで、花岡さんと林さんに少しつっこんでお話を聞くことにした。
——なぜ落語家を呼ぶことになった?
花岡さん:落語が好きだからですね(笑)。僕は深夜ラジオが好きで伊集院光の『深夜の馬鹿力』をよく聞いていました。あの人はもともと落語家だった時代があって、そのことがきっかけで落語の世界に興味を持ちました。
それで、いろいろ聞いていくうちに柳家喬太郎さんという落語家が大好きになりました。1人で家具を作りながら聞いてゲラゲラ笑って・・・そんな感じに、日常的に落語を聞くようになっていったんです。
林さん:私は、2016(平成28)年に、夢枕獏さんの原作で『エヴェレスト 神々の山嶺』という映画にちなんだチェリティーイベントが東京で開催され参加したんです。
映画の撮影地でもあった、ネパール一帯で大地震が発生したことによるイベントだったのですが、なぜかそこで花岡君とバッタリ会ったんです。ビックリして「なんで東京にいるの!?」って聞いたら・・・
花岡さん:映画の撮影地に、作者の夢枕獏さんが行くことになって、太田さんが同行したんです。それで、標高5500メートルの山岳地帯でそばを打つことになって・・・
——・・・は?
花岡さん:(笑)。でも、そばを打つ道具をそのような環境で持ち運ぶのは大変なので、僕がコンパクトな“そば打ちキット”を作ったんですよ。そのお礼として、東京でのイベントに招待されたんです。
林さん:ともかくそれで、3人の繋がりができた。
花岡さん:話をしてみると林さんと太田さんも、落語好きであることが発覚して「地元に落語家さんを呼びたいね」という話になり企画がスタートしたわけです。
——1回目(去年)の落語会はどんな感じだった?
花岡さん:で、あらためて太田さんに聞いてみると「昔、自分の店でも落語会をやったことがある」ということで・・・その経験は大きかったです。それで、太田さんに落語家さんの空いている日程を確認してもらい、開催日を決めてから具体的に動きはじめました。
林さん:1回目の落語会は今回と違う場所での開催でしたが、客席数が80席なのに120名のお客さんを入れちゃって・・・補助椅子を出しまくりましたね。超満員でした。
あと、会場には舞台が無かったので、花岡君が家具職人の技を駆使して、試行錯誤しながら作ってくれた舞台が素晴らしくて・・・手作りなんだけど、落語家さんとお客さんの距離感がすごく良かった。
——花岡さんは、普段は地元・岡谷に暮らしている。一方、林さんは東京在住。それぞれ地元について何か思うところはありますか?
花岡さん:人口減少や、お店が少なくなってきているとか、いろいろ問題もあるんですけど、個人事業で家具店をやってる身としては、自分は地域・・・というか日本の毛細血管みたいな存在だと思っているんです。
心臓とか肺に該当する大手の企業さんもいろいろありますけど、地域が元気かどうかは、毛細血管に血液がたくさん通っているかどうか? だと思うんです。
だから、商店街とかそういう小さな商いをする人たちが元気になってくると、地域も元気になると思います。自分が関わるビジネスとか商売でお金を稼いで・・・もちろん落語会もそうです。みんなが楽しく地域でお金を回すことができれば一番嬉しいです。
林さん:私はとにかく30歳くらいまでは地元に帰りたくなかった(笑)。友達もそんなにいなかったし、昔の友達はみんなバラバラになってたし・・・
でも、今では私も参加する「だもんで」(※前述した“地域を楽しくするための集まり”)や、SNSでいろいろな人と繋がって、それらが突破口になり「こんなに面白い人たちが地元にいるんだ」って気がついた。
「この人たちに会いたい!」という思いから、今では頻繁に地元に帰るようになりました。
——生で聞く落語とは?
花岡さん:地元では落語を生で聞く機会が無かったので、やっぱりこの場所で聞いてみたいという思いがありました。僕は、東京にある寄席や、他の落語会に行ったことはありませんが、今では“生で落語を聞くのは、1年間で自分たちが企画するこの1回だけ”という気持ちになってます(笑)
——それはそれで逆にぜいたくかも。林さんは?
林さん:やっぱり生で聞くのが一番です! 今はお手軽に動画投稿サイトなどで聞くこともできますが、1人部屋の中で「・・・ハハハ」と笑っているのと、みんなが集まる会場で、落語家さんたちがその場で入れるアドリブ・・・そういう生でしか味わえない体験は、0と100くらい違うので、絶対聞いた方が人生的にも得です(笑)
——来年に向けて何かありますか?
花岡さん:イベントを運営すると、参加してくれたり応援してくれたりする人たちがいて・・・そういう人たちって「似たもの同士なのかな?」と思います。
だから、自分も別のイベントに誘われれば行くし、また、自分たちのイベントにも来ていただく。いろいろ交わりながらやっていくというのが、楽しいなと思います。
林さん:落語会はこれからも続けていきたいと思っていますが、虎と申年は絶対にやらないです。なぜなら、御柱祭りがある年なので(笑)。私たちもお祭りにかかりきりになりますしね。
林さん:でもやっぱり、今みなさん・・・自分もそうですけど、日々のめまぐるしい暮らしに疲れている(笑)。東京で生活しているとすごく思うんです。通勤電車ひとつとってみても、毎日何かの理由で電車が止まる・・・そのことにイライラして舌打ちしている人がいるし(笑)。で、それを見てこっちも嫌な気持ちになるという・・・余裕がないですよね。
「笑い」って絶対その人の人生を明るくするし、お腹から笑うのって単純なんだけど難しい。それができちゃうのが落語だと私は思います。というわけで来年もやります!(笑)
終わりに
「落語が好きだから落語家を呼んだ」という言葉が印象的だった。
実際に、落語会を取材してまわると、バックステージでは運営する人たちの笑顔。そして、集まってくるお客さんたちも笑顔。高座に上がる師匠たちも笑顔。
チケットも予定通り売れたし、来年へのめどもついた。これってすごいことだと思う。
花岡さんが話してくれた「地域が元気になる」という言葉の意味は、きっとこういうことなんだろう。