革として利用するために
ーー獣の皮を実際に使用するためには、加工することが必要ですよね?
そうです。実際のところ、加工業・・・つまりなめし工場は木曽にはありません。だから、MATAGIプロジェクトのネットワークを活用して、東京のなめし工場に加工をお願いしています。
ーー木曽では難波さんが来るまでは、皮を再利用するという取り組みはなかったのですか?
なかったですね。
ーーレザークラフトはどのように覚えたのでしょう?
ほぼ独学ですね。昔から興味がありました。でも、ちゃんとはじめたのは木曽に来てからなんです。
そして、害獣の皮の活用した事業を立ち上げるという視点で考えると、最初から外部のデザイナーさんにお願いしたり、どこかの工場に生産を委託するというのは現実的ではないと思いました。
なので、まずは自分が思ったとおりのデザインでハンドメイドすることにしたんです。あと、私が単純にわがままなので、自分の思ったとおりに物事を進めたいということもあります(笑)
ーー(笑)。最初のなめし革は何に利用したんですか?
ブックカバーなどを作りました。地元で駆除した害獣を利用して作った製品ということで、イベントで販売することもできました。
ーー実際に木曽に来てから、革を使って製品を製作して、販売をするようになるまでにどれくらいの時間がかかったのでしょう?
木曽に来て1年目で狩猟免許を取って・・・1年半くらいたった頃に皮をなめし工場に出して、なめし革が届いてからは自分でいろいろ作ってみて、値段を付けて売りはじめたのが2年目の夏ですね。
ーー木曽で生まれた革ですが、ブランド名はあるんですか?
最初はあったんですけど・・・よく考えてみると木曽のイノシシと岐阜のイノシシで何か違うのか? と思ってしまって(笑)
ーー(笑)
「木曽レザー」みたいな名前を付けるのも違う気がして(笑)。なので単純に「ボアレザー」と私は呼んでいます。
ーーボアというのは?
BOAR。英語でイノシシという意味ですね。
収益事業として確立させたい
ーーこれまでの取り組みによって、害獣を製品として活用できるようになったわけですが、この先も狩猟は続けていきますか?
単純な話として、狩猟をやっている若い奴がいないんですよね。そうすると、結構いろいろな方から、「畑がやられたから何とかしてくれ」と頼まれたりします。特に去年は、例年になく被害が大きかったので・・・もう1人じゃ手が回らないくらいです。
狩猟をする立場になって、獣害問題の厳しさが現実としてわかってきたわけです。だから今は、害獣駆除もやらなければならないし、こうした取り組みをはじめた以上は、捕獲した獲物もきちんと再利用していきたいです。
ーーなるほど。若い猟師としても期待されているわけですね。
はい。今はどっちがやりたいとかではなく、全部ひっくるめて1つの活動であるという考えです。
ーー自分で獲って、自分で食べて、自分で皮も利用する。
そうです。
ーーより多くの方に製品を購入してもらいたいという気持ちはありますか?
もちろんです。これまではイベントでしか販売してきませんでしたが、ネットショップを開設したいと思っています。今は、その準備をしている段階ですね。
ーーそれは個人の事業としてということですか?
そうです。今年度いっぱいで地域おこし協力隊の任期が切れるので、そのあとの収入の一部にできればと考えています。
ーー今後も木曽に住み続けて活動していく?
何十年も先のことはわかりませんが、すぐに出て行くようなことはありません。今やっている狩猟にしても、レザークラフトにしてもまだまだ新米だと思っているので。
ただ、今日のイベントにしてもそうですけが、手応えはすごく感じています。やっていることは間違っていないと思うし。でも、ちゃんと稼げなければ続けられないと思うので、いかに収益事業化するかですね。
ーーはい。
地域おこし協力隊という制度で移住してくると、前もって知識としては知っていたとしても、さまざまな現実を目の当たりにします。農業は衰退して、空き家がたくさんあって・・・でも、ボランティアとか行政の指導で問題を解決しようとしても、絶対にどこかで止まっちゃうんです。
安定した収益事業として確立させるのが、いろいろな問題の長期的な解決になると思っています。だからまずはある程度の収入が必要で、この場所で生活できるライススタイルを確立しなければいけないと思っています。
ーーまずは、自分がこの場所で生活できないとはじまらないし、問題を解決するにも収益が必要ということですね?
そうです。そして、そういう仕事を作り出すことができるんだということを、実例として見せなければいけないと思っています。
ーー今までは、地域おこし協力隊としてある意味、木曽町に限定された活動だったと思うのですが、これからはどのように活動していきたいですか?
すでに、同じ県内である長野県の伊那や松本にある解体場には、自分の考えを伝えてあります。解体場と繋がるのが一番効率がいいんですよ。要するに解体場には近隣で捕れた獲物が集まってくるわけです。
解体場では、獣を解体して肉を売るだけなので、皮や、内蔵、骨は廃棄してしまいます。だから、捨ててしまう皮があれば引き取らせてくださいとお願いしてあるんです。
ーーなるほど!
今では解体場の方が「皮が貯まってきたけど取りに来る?」と連絡してくれるようになりました。だから、木曽以外の地域の人とも連携した活動がはじまりつつあるという感じです。
ーーなるほど。では今後の指針としては、狩猟を続けつつ、解体場と連携して、継続的に製品を製作し、販売するチャンネルを確保していくということですかね?
そうですね。それと、今回のようなイベントやワークショップも開催していくつもりです。
あと、私の中では皮の活用はあくまでも第1段階だと思っているんです。最終的には、皮も骨も肉も内臓も、あますことなく再利用できるビジネスを作り出したいと思っています。
ーーすごいですね。
解体場を自分で運営できるといいんですけどね(笑)。そこを拠点にして、製品の製造から販売までトータルでやっていくのが理想です。ただ、これを1人でやれるかというと、私には無理なんですけどね(笑)
ーー(笑)
ですから、まずは1人でできるところまでやって、なんとか生活することができる程度の収益を得ることが第1段階なんです。
ーー楽しみにしてます。また、お話を聞かせてください!
はい。でも、わかんないですよ。食いっぱぐれて山の中で死んでるかもしれない(笑)。本当に博打なんですよこれは。
終わりに
現実に横たわる厳しい状況をしっかりと認識しつつも、少しずつ理想に向かって進んでいく姿が印象的だった難波さん。
これからどうなっていくのか? また取材させて頂きたいと思った。
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