諏訪地域の寒天の伝統をどのように守る?
ーーでも、それって正しいですよね。日本酒だって昔は木の樽で作っていたけど、今は鉄製のタンクも利用しているわけですし、お酒の絞り方だって全然違うじゃないですか。もちろん昔ながらの方法で作るお酒もありますが。でも、それはそれぞれ別の商品として売ればいいわけですし。
私は、伝統を守るということには2つのパターンがあると思っています。「昔ながらの方法を守る」というパターンと、「新しいことをはじめて伝統を守る」というパターンです。
ーーですね。
私は「新しいことをはじめて伝統を守る」という意識が強いですが、でもこれは伝統を失くすための取り組みではありません。伝統を残し今の時代に即した作り方をするためです。
そしてなによりお客さんのニーズに合った商品を作りたいんですよ。商売って、ただそれだけのことじゃないですか? 正直、売れないものを一所懸命作ったって、言い方は悪いですけど、何のためにやっているんだ? ということになってくるので。
ーー本当ですね。
今の時代、ただ買い物するだけでは、お客さんもつまらなくなってきているのだと思います。でも、寒天は生産する過程を体験してもらえる産業であり、そのストーリーもとてもわかりやすい。
「生の海藻がこんな過程を経て寒天になる」というのは単純に面白いじゃないですか? そういうことを、どのように発信していくかだと思います。だから、生産期に来てもらって体験してもらうことで、寒天を知ってもらえるし、生産現場を見てもらえれば、寒天の食べ方だって変わっていくと思うんですよ。
ーー子供の頃、社会科見学で行った即席ラーメンの工場や味噌工場とかって大人になってもブランド名まで覚えてますよね。
やっぱりそういうことが、伝統を守るのではないかと思います。地元産業の場合は特に、地元の人が想ってくれないと話にならないので。
あと「おかしなかんてん」という商品を、規格外の寒天で作りました。せんべいのような感じのお菓子です。天然の寒天を加工して、特殊な乾燥をしてから揚げているんですけど・・・これもものすごく同業者から叩かれまして(笑)
ーーえー! 何で・・・まぁ、なんとなくわかりますが(笑)
(笑)。私は今のニーズに合うんじゃないかと思って作ったんです。結果的には安定した売り上げで、これまでになかった商品となりました。毎日コンスタントに売れているんですよ。これは、寒天という商品にはありえないことなんです。
「すぐに食べられるものを作れないか?」という思いがずっとあって、最終的に完成するまでに8年間かかりました。食物繊維は寒天と変わりません。これからはこういった、寒天を使った「健康的なおかし」も展開していきたいです。
そして、この商品のおかげで失敗しても怖くないんです。全然冷え込みがなく、棒寒天がうまく作れなかったシーズンであっても、この商品なら作ることができるんです。
今は弊社にしかない商品ですけど、業界全体でこのような取り組みを進めていけば、ロスが無くなり経営へのダメージを回避することができます。そのためにも、付加価値のある商品を作り出すことは必要不可欠で、かつ、お客さんのニーズがあるもの・・・そういう商品がまだあると私は思ってるんですよ。
ーー確かにありそうです。
私たちが、ちょっと新しいことをはじめただけで、これだけ話題になっているんです。業界全体で冬の生産期に受け入れ態勢を整えれば、諏訪地域や茅野という場所に、もっとお客さんも呼べると思います。スキー場に行くような感覚で「冬だから寒天屋さんに行こう!」みたいな。そういった存在になった方が絶対にいいと思うんですよね。
ーーなり得るし、それは可能だと思います。
ね? 繰り返しになりますが、天然素材を使用した健康食品であり、かつ全国にもここにしかないものなんです。だったら、それをもっと広めればいいんですよね。そうすれば寒天を目当てにしたお客さんを集められるはずなんです。
「寒天狩り」では、お客さんに「天草が生寒天になって・・・」というところから、ていねいに説明をします。それだけでも、知らない人は食いついてきますよ(笑)。これは「寒天狩り」の主催者として断言できます。
ーー「なぜ海がない県なのに、寒天があると思います?」みたいな導入で(笑)
そうそう!(笑)、そこから寒天の壮大なるストーリーがはじまるわけです。でも、ほかの寒天屋さんに見学者の受け入れをお願いしても、断られてしまうのが現状なんですよね。
そこには、立場の違いもあると思います。私は、これから30年、40年と寒天作りを続けていくつもりですが、あと5年ぐらいで終わりにしようと考えている寒天屋さんも多いと思うんです。
ーーどんな産業でもそういう問題はありますよね。「自分が卒業したら終わり」という。
だから「そんなことまでやらなくても・・・」と思うんでしょうね。でも、そういう人だって本当は、諏訪地域の寒天の伝統を残したいと願っていると思うんですよ。そして伝統を残したいならやはり「新しいことをはじめて伝統を守る」べきだと思います。
終わりに
茅野さんが「実は、こういうものを作ったんですよ」と見せてくれたのがこれ。
「インスタ映えを狙います(笑)。これを「寒天狩り」の会場に飾って、記念写真を撮って頂けるといいなと思って作りました。これは腐らない寒天だからできるんですよ! 野菜じゃできないですよ!(笑)」と茅野さんは楽しそうに笑っていた。
諏訪地域の名産品「寒天」の伝統を守る戦い。そのために必要な“新しいこと”は、現在進行形で次々とはじまっていた。
取材協力
- 有限会社イリセン
※「寒天狩り」および生産現場の見学は生産工場へ。詳しくは電話(0266-52-0342)、Facebookにて問い合わせのこと。 - 本社
住所:長野県諏訪市大字四賀2769番地
電話:0266-52-0342
駐車場:4台
アクセス:中央自動車道 諏訪ICから車で約5分
最寄駅:JR中央本線 茅野駅からアルピコ交通バス「茅野・上諏訪・下諏訪・岡谷線」で「四賀神戸」下車、徒歩約3分 - 製造工場(冬季限定)→「寒天狩り」会場
住所:長野県茅野市北山湯川1253番地
駐車場:5台
アクセス:中央自動車道 諏訪ICから車で約30分、諏訪南ICから車で約40分、
最寄駅JR中央本線 茅野駅からアルピコ交通バス「白樺湖・車山高原線」で「湯川」下車、徒歩約5分