「寒天狩り」とは?
ーー「寒天狩り」というのは「新そば」みたいなイメージで、作りたての寒天を食べてもらうイベントのことなんですか?
昨年から「寒天狩り」をはじめたのですが、それまでは、私たちもほかの寒天屋さんと一緒でただ作るだけでした。だからはじめは、どうやってお客さんを呼べばいいのかもわからずにスタートした感じです。
「寒天狩り」というネーミングには、「ぶどう狩り」とか「イチゴ狩り」みたいな感じで、生産期にここに来てほしいという思いを込めました。
結果的にはすごく反響を呼んで、生産現場を見学したお客さんが感激して、作りたての寒天を喜んで買っていってくれました。本当に嬉しかったです。
つまり、寒天を生産する現場に来てもらって、目で見て、体験をして、味わってもらって、寒天とふれあう。それらすべてをひっくるめての「寒天狩り」なんです。
ーーとにかく面白い取り組みだと思います。寒天の存在は知っているけど、製造工程を含め詳しいことを知らないという人は多いと思うので。
もちろん、生産作業を止めて対応することになるので、それなりに大変なんです。寒天作りの作業はそんなに簡単なものでもないですし。でも私は、手を止めてでも対応することによってファンになってもらいたい。来てくれた方に、寒天についてしっかり伝えることによって、この産業が残っていくと思っているんです。
子供たちにも積極的に体験してもらう。そして、その子たちが大人になった時に、「寒天を作ったことがある!」という記憶を残してもらいたいと思っています。
ーーいいですね!
あと、ここはスキー場にも近いので、他県の方も多いんですよ。そういった方々もたくさん来てくれています。みなさん興味津々なんですけど、たぶんほかの寒天屋さんは、そういうお客さんの要望に気がついていないと思うんです。気づいていたとしても対応ができないと思います。生産現場がそういう体制になっちゃってるから。
寒天の生産現場の現状と改善
ーー寒天の生産現場の体制ってどんな感じなんですか?
寒天の生産は冬場だけなので季節雇用の方が多いです。多くの会社は北海道などから、20人ほど出稼ぎの方を呼んでいると思います。弊社は私が会社を継いでからは、100%地元の方を雇用しているんです・・・とはいっても、人集めも大変なんですよ。冬場しかない仕事ですし。
私は女性でも働ける産業にしたいと思っていて、力がなくても作業ができるような現場に変えていっています。寒いのだけはどうしようもないんですけどね(笑)。他の寒天屋さんは男性でないと厳しい重労働なんですよ。
でも、棒寒天だけにこだわらなければ、生産現場の体制を変えることができると思います。うちは正直言うとメインで作業をしているのは4人だけです。
ーー他の会社で20人必要な仕事を4人で!?
だから、ほかの寒天屋さんが見に来ますよ(笑)「どうやってるんだ!?」って。寒天屋さんの日当は最低でも1万円です。単純計算して20人いれば1日で20万円じゃないですか? 100日稼働したら2,000万円ですよね? そんなお金はもうないんです(笑)
でも、午前中だけとか、2時間だけやりたいとか、そういう人はいるわけです。そういった方々にお願いして作業をまわしています。
あと、生産現場の環境の違いも大きいと思います。弊社の工場は茅野市の郊外にあって、まわりには寒天を干す場所がたくさんあるんです。
でも、諏訪地域の寒天作りのメッカは、茅野市宮川地区という場所で今では街中なんです。昔は、寒天の製造に適したいい場所だったのですが、高速道路ができたり住宅が増えて田んぼが減っているので、寒天を干す場所がないんですよ。また、寒天の大敵である埃も多くなってきた。
ーーなるほど。
私たちは、数年前から地主さんと交渉して、通年で利用することを前提に、1年中貸してもらえる土地を探したんです。今借りている場所は、夏場に田んぼとして利用されなくなった土地で、つまり、片付けをしなくていいんです。
寒天屋さんの一番大変な仕事は、準備と片付けなんですよ。11月になって田んぼが終わってから地主さんから土地を借りると、まず寒天に泥が付かないようにするために藁を敷く。といっても、広大な土地ですから藁を敷くだけでも一苦労です。そして、藁だって今はお金を出して買わなければならない。そして次は杭を打ちます。 この作業は10人でやっても1ヶ月くらいかかる重労働です。
このようにして、寒天を干す場所を作るわけですが、4月には農家さんに田んぼを返さなければなりません。だから片付けることまで考えると、さらに生産期間が短くなるわけです。
私たちの場合だと、通年で借りているので片付けないし、伝統的な生産方法に沿った作り方ではありませんが、実際に寒天の生産はできています。4人でやっていけるというのは、そういうことなんです。
ーー産業としてやっていく以上は、状況に合わせて合理化をするということですね。
写真なんかで見たことがあるかもしれませんが、伝統的な生産方法では寒天は斜めに干すんです。なぜかというと、少しでも早く凍らせたいから。だから、なるべく太陽に当てないように斜めに干します。
そして凍ったあとは、今度は逆向きにして太陽に当てて溶かします。斜めになっていると水分も抜けやすいわけです。でも、これがすごい重労働で・・・だから20人体制にする必要があるんです。
おまけに最後は“振りかえ作業”といって、さらにそれを回転させます。そのことで、斜めだった寒天が“均等”になる・・・みたいなイメージですよね(笑)
ーー過酷な作業ですね。
でも、私たちは最初から寒天を水平に干しています。確かに凍るのも溶けるのも遅いです。でも、時間はかかりますが寒天はできます。そして、本当に形がいい棒寒天を作りたければ、水平にして作るのが一番なんです。
ーー確かにそうですよね。
なぜ急いで凍らしたり溶かしたりするかといえば、干す場所が限られているからなんです。少しでも早く仕上げて、次の寒天を干さないと量産できない。でも、うちは見ての通り、本当に増産したければいくらでも干す場所があります。
水平に干すことによって、毎回藁を敷いたり、杭を打ったりする必要もなくなります。これらの作業をシーズンごとに行うのは、寒天作りが農家の副業からはじまったからであって、寒天作りだけに専念するのであれば、アスファルトの上でやったほうがいいとさえ思っています(笑)
ーーうーん(笑)。でも、農家の副業でなくなったのならそうなりますよね。
こういうことを言うと、また怒られちゃいますが(笑)。でも、現実に余っている田んぼがあるから、こうなっただけなんですよ。寒天だけ作りたければ、たぶん大きな駐車場とかコンクリートの床で生産した方が、冷え込みもあると思いますよ。