諏訪の名産品「寒天」の伝統を守る戦い!イリセンの「寒天狩り」ってなに?

本当に棒寒天でなければだめなのか?

寒天の製造工程において最初に行われるのは原材料である海藻を洗うこと

ーーでも、棒寒天にこだわるから規格外になってしまうんですよね? ほかの形ではだめなのでしょうか?

諏訪地域の特産品として指定されているのは棒寒天なんです。・・・でも、実際の話、地元のお客さんは直売所へは規格外を買いにくるんですよ。

ーーそれはどういうことですか?

寒天は味があるものではないし、溶かして使うのものだからです。だから、寒天のことを知っている人であれば、規格外でも安ければそっちを買うわけです。溶かせば一緒なんですから。

洗った海藻を水にさらし、さらに細かいゴミなどを分離させる

ーー(困惑・・・)なるほど。

棒寒天が売れているように見えるのは、規格外が出荷されていないからです。つまり、棒寒天しか店頭に並ばないから売れているように見えるわけです。

今、棒寒天を溶かして使っているのはおもに年配の方なんですよね。若い方はゼリーなんかを作る場合には、粉寒天を使っています。その方が手間がかかりませんし。

きれいになった海藻は、“釜場”に運ばれてくる

ーー(さらに困惑・・・)なるほど。

先ほども言いましたが、1万本作って3千本が規格外になります。本当に考えられないことなんですけど、これまで、規格外の3千本は業務用として出荷するなどして安売りしていたんですよ。

それを目の当たりにして、「なんてもったいないんだ!」と思いました。私も正直言うと、家業が寒天屋だったので最終的にはこの仕事に就きましたけど、もともとは違う仕事を渡り歩いてきたんですよ。

海藻を煮る巨大な釜。お湯を沸かすだけで半日がかりだ

だから、「ちょっとおかしいぞ」と気がついたのだと思います。もし、若い頃からこの仕事に就いていたら、親がやってきたやり方に疑問を持つこともなく、同じことをただ繰り返していかもしれません。

なぜそんなことになるかというと、形にこだわっているからなんです。にもかかわらず、地元の人たちは規格外を買いに来るわけです。

バーナーの火力を調整して釜の中を適切な水温に保つ

ーーそして、どちらにしても結局は溶かして使うわけですよね?

そう(笑)。手間暇をかけて棒寒天を作り出しているのに、“棒であることをを求められていない”という珍しい商品なんです。

ーーえーと。すごく混乱しているんですが・・・(笑)

(笑)。普通の農産物や食品には味があるじゃないですか? リンゴでもブドウでも、農家さんが手を掛けて、規格に合わせつつも味を良くして・・・それをお客さんが買うわけです。そして、農家さんによっては、工夫を凝らしてさらにおいしいものを作る。そうやって付加価値を高めて贈答用として出荷したりするわけです。

お湯に海藻の粘液が溶け出して液体状の“生寒天”ができたら・・・

生寒天をホースを使って枠に流し込む

流し込まれた生寒天を棒寒天の大きさにカット

でも、寒天の場合は味もなく、形だけで規格外になってしまう。品質は同じで結果的にただ折れただけなんですよ? まったく同じだけ手もかかっているんです。それがものすごくもったいなくて「どうしようどうしよう?」と考えました。

そして、私が思いついたのは「だったら意図的に規格外を作ればいいんじゃないの?」ということでした。

 

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