「読書の森」のイベントと懐古園への出店
筆者がはじめて一ノ木さん夫妻と出会ったのは、2018(平成30)年5月に開催された、小諸市にあるゲストハウス&カフェ「読書の森」でのイベントだ。そこで2人は手作りのパンを販売していた。でも、なぜまたパンを売りはじめたのだろう?
「移住する前、家の下見に来た時に『読書の森』に立ち寄ったんです。そこは森の感じとか、浅間山が見える風景とか、とてもいい感じの場所でした。その時は『移住してきますので、またよろしくお願いします』と言って帰ったんですね」
「そして引っ越してきてから改めて、挨拶もかねてお伺いしました。それから時々立ち寄るようになって、『ここで、何か出したらいいよ』と声をかけて頂いたんです」
筆者がその時に、一ノ木さんから聞いていたのは「イベントでパンを売りながら、ゆくゆくは自宅でパン教室をはじめたい」ということだった。しかし、そのわずか3ヶ月後に懐古園で蒸しパン屋さんをはじめることになったと聞いて驚いた。その間に何があったのだろう?
「夫が懐古園のwebページで、飲食店を募集していることを知ったんです。『遊園地の中の飲食店だって!』ということで2人で見に行きました。そして、『このスペースを、すぐにお借りすることはできるんですか?』と聞いてみると『大丈夫です』ということになって(笑)」・・・なんか既視感のある展開である。
「その時に、担当者の方から『何を出して頂けますか?』と聞かれて『あ! 蒸しパンかなぁ』とその場でひらめきました(笑)。蒸しパンは小さな子供から大人、お年寄りまで食べることができるし、遊園地で売る食べ物としてはすごくいいと思ったんです」と一ノ木さん。
「小諸に移住して驚いたのは、地元産の小麦粉がスーパーでも手に入ること。しかも種類も豊富で本当にビックリしました」と感激していたので、もしかして「ツルヤ(※)」のことですかと聞いてみると・・・
ツルヤ
長野県小諸市に本社を置くスーパーマーケットチェーン。現在では長野県のほぼ全域に出店しており、クオリティの高いプライベートブランド商品も充実している。
「そうです。ほんとに素晴らしいですよね! 他にもスーパーはありますが、やっぱりなんといってもツルヤさんです。三重にいる頃は、地粉でパンを焼いたことがなかったんですが、蒸しパンにはちょうどいいかな? と思って使うことにしました」
ツルヤについてひとしきり盛り上がったあとで(※筆者もツルヤ好き)、長野県はそばで有名ですが、地元の人たちは、おやきをはじめ、うどんやニラせんべい、すいとんなどの“粉もの”を子供の頃からよく食べていると思いますよと伝えると、一ノ木さんは「ほら! 蒸しパンで間違いなかったでしょ!?」と笑った。
粉花のこれからと一ノ木さんの夢
今回、懐古園にある粉花の店内にてお話をお聞きしたわけだが、取材中も子供連れのお客さんが次々と訪れては、それぞれが気に入った味の蒸しパンを購入していく。
筆者も「豆乳ぷれーん」と「抹茶×ホワイトチョコ」を試食させて頂いたが、それぞれ味に個性がありキャラが立っている。そしてほんのりと温かく、なんとも優しい味わいだった。
これは、懐古園の名物になるかもしれませんね。と一ノ木さんに伝えると「ありがとうございます。お客さんからも『蒸しパンってところがいいよね』と、よく言ってもらいます」とのこと。
蒸しパンの味付けについては、「定番の『豆乳ぷれーん』は残しつつ、毎月3種類くらいずつ何か変化をつけたいと思っています。でも、成り行き次第ですね。作っている人がこんな人ですから(笑)」と笑う。
一ノ木さんにとっては、蒸しパンの味のチョイスもインスピレーションで決まるのだろう。「今は秋だし、色がきれいだから栗と芋を使う。とか、そんな感じで旬の食材も取り入れたいですね」とのことだった。
念のため、粉花はビジネスとしてちゃんと考えているんですか? と質問してみると「聞きますか? そんなことを(笑)。今日お話しした中で、私がちゃんと考えて行動していたことがありましたか?」と逆に質問されてしまった。
しかし、そのインスピレーションの鋭さは、これまでお話を聞いてきた中ですでに証明されているのではないだろうか?
現在、粉花の蒸しパンは、懐古園の店舗と東御市にある「sunsun cafe(さんさんかふぇ)」で食べることができるが、今後はさらに違う場所でも手に取って頂けるように、動き出しているということだ。
一ノ木さん自身は、今後どのように生きていきたいのだろう? 伺ってみると予想通りの答えが返ってきた。
「わからないですね(笑)」
「また『こんなことをして遊びなさい』と神様に言われたら『はーい』と答えるでしょうし(笑)。私は『あー面白かった!』と言って死ぬのが夢なんですよ。だから、自分が望むことと、インスピレーションとを織り交ぜながら『この体を使って何ができるか?』ということを突き詰めたいです」ということだった。
取材も佳境となったので、筆者が一ノ木さんのお話を聞く中で気がついたことを話してみた。それは、いつも「場所」を見つけてくるのが勝治さん。そして、その場所で「何かをはじめる」のが一ノ木さんだということだ。
「そうそう(笑)。懐古園を見つけてきた時もそうでした。私は『あら! 場所が見つかっちゃった。どうしよう? じゃあ蒸しパンを作ろうか!?』みたいな感じ?(笑)」
最後に移住してみてどうでしたか? とお聞きすると次のようなシンプルな言葉をいただいた。
「今、人生の中で最高に幸せです!」
終わりに
取材を終えて思ったのは「いろいろな人がいるから世の中は面白い」ということ。
考え方もポリシーも人それぞれで違うから面白い。そして、走り続けている人はとても素敵で、そんな人と出会えることは、違う人生を生きる者同士でも大きな励まし合いになるから不思議だ。
一ノ木さんは、今後どんな“インスピレーション”を得て、どのように「もっと遊んで」いくのか?
筆者には想像することすらできないが、とてもとても楽しみだ。
店舗情報
- 蒸しぱん+蒸しぱんまんぢう 粉花
住所:長野県小諸市丁376-1(小諸市児童遊園地内)
営業日:土・日・祝祭日+懐古園内イベント時
※臨時休業の場合あり
営業時間:10:00〜16:00頃
最寄駅:JR・しなの鉄道 小諸駅から徒歩で約6分
アクセス:上信越自動車道 小諸ICから車で約10分
最寄駐車場:懐古園第3駐車場
Facebook:蒸しぱん+蒸しぱんまんぢう 粉花