長野県小諸市に移住して遊園地の蒸しパン屋さん「粉花」を開店したわけ

いつかは森に住みたい

移転するきっかけとなった勝治さんの腰痛は、新しいお店に移ると回復したそうだ。お客さん達には移転したことを知らせることができなかったが、「みなさん自力で見つけて来てくださいました(笑)」と当時を振り返る。

完成した蒸しパンたち

移転したお店では何か変化はあったのだろうか?「菓子製造業の資格を取って、店頭でもパンの販売をはじめました。カフェでは変わらずパンとスープがメインでしたね」ということで、結果的には、移転したお店も順調だったとのこと。

しかし、ログハウスのお店も忘れがたかったとのことで、「毎日ログハウスで働いていると、木がどんどん好きになって・・・その空間にいるととても落ち着いたんです」と、その理由を振り返る。

ずらりと並んだ多彩なフレーバー

「だから、お客さんや友達にも『いつかは森に住みたい』とはよく話していたんです」。そして、2015年(平成27)年の秋に、勝治さんが長野県の車山高原に建つゲストハウスが、売りに出されていることをネットで見つけたそうだ。

「建物のまわりにある白樺の森が本当に美しくて・・・2人で『このゲストハウスが欲しい!』と盛り上がってしまったんです(笑)」

「夫も木が好きだからこそ、最初のお店もログハウスに決めたわけですし・・・」。そんな理由もあり、「本当に理想の森を見つけてしまった」という感じだったと当時を振り返る。

こうなると2人の行動は早い。実際にその物件を見るために2回長野まで足を運んだそうだ。そして購入することを決意し、勝治さんは親に「長野で暮らしたいから、家を売って一緒に移住しよう」と切り出したところ「じゃあ、そうしようか」ということになったそうだ。しかし、ちょっと信じがたい展開だ・・・

「6個詰め合わせBOX」に一ノ木さんが書いているのは・・・

2世帯住宅を建て親と一緒に暮らし、しかも地元で商売をしているのに、なぜ「家を売り払って全員で長野に行こう!」と考えることができたのだろうか?

「なんでしょうねぇ(笑)。でもお父さんも『うーん。じゃあ行っちゃおうか?』みたいな反応でしたよ」というから驚きだ。

しかし、自宅を売却することを決めると、それまで知らなかった事実がいくつか判明する。自宅が東日本大震災のあと「津波災害警戒区域」に指定されていたこと。そして、「市街化調整区域」に自宅が建っていたこともわかり、買い手がかなり限定されたそうだ。それにともなって価格も下げざるを得なくなり、ゲストハウスの購入額には届かなくなった。

また、勝治さんの姉が三重に住んでおり「みんなが行ってしまうとさみしくなる。住む場所もあるから親には残って欲しい」という話も出て、結局「家が売れたらあなたたちだけ長野に行けばいいよ」ということになったそうだ。

手書きの粉花の文字

「ゲストハウスを購入するには、ちょっと厳しい金額になってしまいましたが、家は売れました。それで、新たに長野で家を探して見つけたのが、今私たちが住んでいる小諸市の別荘なんです

「訪れてみると素晴らしい場所で、夫と2人で『あ! ここだね』って(笑)即決しました」ということで、いつも通りのインスピレーションも得て迷うことはなかったそうだ。

別荘は2世帯住宅を売却した資金で購入したが、カフェを経営していた時の借り入れもあり、売却した2世帯住宅のローンも返済したため、無借金にはなったが余裕はなくなり、小諸ではゼロから生活をスタートすることになったという。

長野県小諸市に移住

一ノ木さん夫妻と息子さん(次男)の3人が小諸市に移住したのは、2017(平成29)年8月8日。引っ越してまず何をしたのか? と聞いてみると「しばらくは家族で別荘地を散歩しましたね(笑)」とのこと。

粉花の店内の全景

移住してからの仕事については「いずれは探さなければならないとは思っていました」ということで、しばらくのんびり過ごしたあと、2人でハローワークに通ったという。

そして、勝治さんはチーズの製造会社、一ノ木さんはコーヒーの製造会社に勤めることになった。どちらも地元では知られた企業だ。

「夫はアパレルでの経験を買われたみたいです。営業をしながら製造を少し手伝ったり、会社が経営するカフェもあるので、そのお手伝いにも行っているそうです」ということで、勝治さんの能力を活かせる新たな職場が見つかったそうだ。

蒸しパンの材料

一ノ木さんは、「9月には仕事を探しながら、小諸駅前のカフェでアルバイトをしていました。でも、冬になるとお店はほとんど稼働しなくなることがわかったので、改めて仕事を探して見つけたのが今の職場です。できあがったコーヒー豆を全国に発送したりしています」とのことだ。

 

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