「ハナブサレザー」の立ち上げ
辞めてからは、知り合いの事業の立ち上げを手伝ったりしていたんですが、ちょっと用があって革ベルトの会社へ行ったら、工場長がビックリして・・・「お前は何をやってるんだ?」と言われました。
「お前は、革が好きだったんじゃないのか? 違うだろ今やってることは!」と怒られて・・・そして「もう一度会社に戻ってこい」と誘ってくれました。
本当に嬉しかったです。でも「申し訳ありませんが、戻れません」と答えました。そして、ハナブサレザーの仕事に集中しようと思ったんです。工場長もこちらの状況がわかっていたんでしょうね。内職の仕事を出してくれました。
ーーハナブサレザーの立ち上げ当初ということですね。内職は大きな収入源だった?
当時は、内職がほぼすべての収入でした。時給に換算すると400円くらいで、嫁と2人でやれば時給800円になる・・・工場長が仕事をどんどん出してくれたので、ひたすら内職をしました。
あと、当時はヤフオク(※インターネットのオークションサイト)がはやりはじめていて・・・自分のオリジナル商品を作って出品するようになりました。落札されると現金がすぐに入ってくるので助かりましたね。
ーー当時、ヤフオクに出品した印象的な商品って何ですか?
よくあるバイカー(※バイク乗り)系の革の財布で、一番高いもので7,000円くらいで売れました。数も結構出ましたね。
僕がハナブサレザーをはじめたのが2006(平成18)年で、子供が小さかったこともあり、お金もあまりかからなかったので、最初の1年はなんとかなりました。そんな状況でしたが、ランドセルを作ることにしたんです。
ーーなぜ、ランドセルを作ろうと思ったんですか?
長男が小学校に入学することになったので、自分で作りたかった。技術的にはかなり難しかったんですけど、「もしランドセルをうまく作ることができれば、絶対ハナブサレザーは成功する!」と、そう信じて気合を入れて作りはじめたんです。
1日中ランドセルを作り続けて、夜に「どうだ!」って嫁に見せると、重さを計られて「こんな重いランドセルを誰が背負うの?」ってダメ出しされてね(笑)
ーー(笑)。でも当然ですよね
女性って現実的なんですよ(笑)。でも、なんとか完成させて、地元の新聞社に「息子にランドセルを作ったから取材しませんか?」と連絡したら、『世界に1つの入学祝い』というタイトルで、新聞の1面に掲載してくれました。
次の年には長女のランドセルも作って、3年目にはお客さんからの注文が入りました。それは女の子用のランドセルだったんですけど、お客さんは「私は、お金のことは言わない。でも変なものを作ったら言わせてもらうわよ」という感じで・・・
ーーこだわりがあるお客さんに、注文してもらえたということですよね?
そうです。この時、僕は「この人が満足するものを作ったら、絶対にいいものができる!」と思ったんです。だから、そのお客さんと何度も相談しつつ、試行錯誤を重ねました。完成したランドセルは、お客さんもとても気に入ってくれたし、今度は地元のテレビ局が取材してくれました。
僕のランドセルは値段が高いんですよ。それには理由があって、お客さんと綿密に相談しながら1人で作るし、1年に4〜5個しか作れない。だから2〜3年前には注文してもらうようにしています。今ではランドセルが、ハナブサレザーのフラッグシップ商品みたいになっていますね。
革のお守り
ちょっと話は前後しますが、長男が幼稚園を卒園する時に、お世話になったお礼ということで卒園児全員に、革のお守りを作ってプレゼントしたんですよ。
ーーお守り?
そうです。小学校の校則では、ランドセルから下げていいものはお守りだけと決まっていることがわかって。だったら革で「無事帰る」というお守りを作って、ランドセルから下げてもらえればいいかな? と思ったんです。
次の年に長女が卒園する時にもプレゼントしました。3年目は、自分の子供はいなかったのですが、卒園生のお母さんたちからの要望があって・・・どうも「みんなと同じものを持つと小学校に行っても勇気が出る」ということらしいんですよ。
僕も「それはいいな」と共感して、どうせやるならちゃんとしたいと思ったんです。それまでは、息子や娘がお世話になったこともあってノリでやっていた部分もあったんですが、「これは工場長の想いを伝えなきゃいけない」と思いました。
ーーなるほど。“革の持つ意味”を伝えたいと思ったんですね?
そうなんです。工場長が言っていた「ここに命があったということを忘れないで」という意味をきちんと伝えるわけです。それ以来、卒園生たちに毎年プレゼントさせてもらっています。
大人に元気がなければ、子供たちの夢を守ってあげられない
僕には4人の子供がいますが、小さい頃はみんな落ち着きがなくて(笑)。僕は個性的な人間の方が好きなので喜んでいたんですけど・・・でも、今はそういう子供たちを訓練するんですよ。
ーー幼稚園で訓練するんですか?
市の担当者が、幼稚園の子供たちを見てまわるんです。そして、「落ち着きがない」と判断した場合、そのことを親に伝え、施設に入れるというような仕組みがあるんです。そこで小学校に入学するまでに集団行動が取れるように訓練をします。
もちろん「この子はそんなことはない」と断ることもできるんですが、うちの子供は4人とも入れたんですよ。どうせなら入れちゃえって。
僕も子供たちと一緒に施設へ通いましたが、幼稚園を途中から抜けることになるので、なかにはコソコソと自分の子供を連れ出しているお母さんもいたりして・・・それが辛そうな感じなんですよ。
それで、「なんとかしてあげなたいな」という思いもあって、「職人村」というイベントをはじめました。
ーーそれは、どんなイベントなんですか?
職人さんたちが集まって、それぞれが持つ技術を子供たちに教えるイベントです。でも、そういうちょっと問題があるとされている子供たちって実は、何かをさせるとすごく器用だったりするんです。集中力が長く続く子も多いし。
そして、子供と一緒にイベントに来てくれたお母さんを褒めるんです。「あなたのお子さんはすごいですね」って。そうすれば救われるじゃないですか? つまり“子供を評価する基準は1つじゃないよ”と伝えるわけです。
子供たちには、「将来の夢」の絵を描いてもらって、職人たちが選びます。学校では学習指導要領に沿って絵を選ぶそうですが、イベントでは職人の目で選ばせてもらっています。優秀作品には賞状と職人が作った作品を渡して表彰もするんです。
ーー子供たちの親である大人を励ますイベントでもあるわけですね
そうです。大人に元気がなければ、子供たちの夢を守ってあげられないんです。