テンホウの“定番ラーメン”ってなに?
商品数が豊富な理由は理解した。では、テンホウの“ラーメンの定番”とはどの商品なのだろうか? お店の名前がつく「テンホウメン」は、「ちゃんぽん」のようだし・・・これはいったいどういうことなのだろう?
大石さんによると「この商品を開発した時は・・・まだ『ちゃんぽん』は珍しかったし、その味に感激したスタッフが思わず“テンホウ”の名前を使ってしまったんです(笑)」
「あとで後悔しましたけどね・・・『ちゃんぽん』のままにしておけばよかったのに。取り返しがつかないことになったんです(笑)」
・・・この話を聞き、筆者も思わず「えー! そんな名前の付け方でいいの!?」と笑ってしまった。
「だから、新しい場所で新店をオープンすると『テンホウメン』か、『おすすめ中華そば』『タンタンメン』が最初に売れます。
「こういったあまり先のことまで考えないネーミングのセンスが、テンホウのメニューにカオスを生んでいる理由です」と笑う。
ちなみに、前編でも述べた通り、創業時からのメニューで現在も食べることができる商品は「餃子」と「チャーメン」「タンメン」だ。
そして、テンホウのファンにはおなじみの“がっつり”メニュー「肉揚げ」については次のように語ってくれた。
「これも初代社長が『パーコー麺がうまい!』と言い出して、メニューに取り入れるべく肉の漬け方や揚げ方などを研究して商品化したのですが・・・なぜか名前を『肉揚げ』にしてしまったんです(笑)」とのこと。
「でも、テンホウで『山賊揚げ』(※長野県の塩尻や松本の郷土料理で大きな鶏の唐揚げ)を限定メニューとして出した時に、諏訪のお客さんに『諏訪は肉揚げだろう!』と言ってもらえたのは嬉しかったですね(笑)」
というわけで、すでに「肉揚げ」も“諏訪のソウルフード”として定着しつつあるのかもしれない。
新工場の建設と餃子の味
大石さんが社長に就任してから5年後の2017(平成29)年に、テンホウは新工場を建設する。
「店舗数も30店を超えて・・・それまでの工場は建設から30年近くたっていましたし、スペース的にも限界が来ていました。衛生面も今後を考えると・・・もちろん、常に改善はしているものの厳しいものがありました」
「新工場を建設したもっとも大きな理由は、2016(平成28)年の夏に・・・夏が一番の繁忙期なのですが、冷蔵庫に餃子が入りきらなくなってしまったからです。そうなると、製造もできなくなるし・・・それで思い切って建て直すことにしました」ということだ。
テンホウの餃子のレシピは、百代おばあさんから代々伝わるもので、現在のテンホウの社内でも、詳しい作り方を知るのは数人しかいないとのことだが・・・機械化を進めることによって味は変化しないのだろうか?
大石さんによると「餃子の中身を、手で詰めていたころを知っている70代80代のお客さんの中には『昔の餃子の皮の方が美味しかった』と言う人もいます。しかし、“手詰め”には限界があるし、現在、餃子は1日に5万個くらいは作っているので、機械化をしていかないととても対応できません」ということだ。
「餃子のレシピは、中身に特殊な香辛料を使っておりその配合は昔といっしょ」だという。
「よく『変わらない味だね』とも言われますが、もし本当に何も変えていなかったら・・・日々美味しい飲食店も増え続けていますし、餃子にしても新しいレシピは次々と出てくるので・・・昔とまったく同じ作り方だったら『味が落ちたね』と言われると思うんです」と大石さん。
「お客さんの味覚が変化していくことに対応して、我々も少しずつ商品を変え続けていかないと、商売を継続していくのは難しいと考えています。餃子の皮の質感や、スープ、麺もそうですが、実はわからない程度に変え続けているんですよ」ということだった。