“水の分かれ”を見る
さて、(再度)気を取り直して公園の中を見てみよう。“分水嶺公園”というからには、どこかに“分水嶺だとわかる何か”があるのだろうか?
この場所から、右側の流れは権現川より信濃川を経て日本海へ。河口は新潟県新潟市。左側の流れは、善知鳥山川より天竜川を経て太平洋へ。河口は静岡県浜松市・磐田市だ。
どちらも、長く大きな川として知られるが、この地に立って、それぞれの行き先について思いを巡らせると、なんだか不思議な気分になってくる。
同じ公園に落ちてきた雨粒たちは、地上に降り立った瞬間からそれぞれ別な場所に向かい旅立っていくのだ。
なんとなく、諸行無常を感じつつも納得したので「善知鳥峠分水嶺公園」を後にした。
日本で一番多くの分水嶺がある県
分水嶺について、もっと詳しく知りたくなったのでさらに調べてみた。
すると、長野県は日本でいちばん分水嶺が多い県であるということがわかった。
日本海側と太平洋側を分ける分水嶺(分水界)を、「中央分水嶺(中央分水界)」と呼ぶそうで、長野県内にある分水嶺もこれに該当する。
これらの場所をたどって地図に落とし込んでみると、かなり曲がりくねって県内を貫いていることがわかった。
以下に掲載する地図の作成にあたっては、日本山岳会の「中央分水嶺踏査」を参照し、長野県内のチェックポイントを筆者が抜粋して地図に書き込んだ。
まずは、北側から見てみよう。
長野県、群馬県、新潟県の県境にある白砂山(しらすなやま)から、長野県内の分水嶺がはじまる。
群馬県との県境をたどり、志賀高原へ。そして、白根山、菅平高原、湯の丸高原と進み、浅間山、軽井沢を抜け国道18号線の碓氷峠に至る。
碓氷峠からは、八風山(はっぷうさん)、国道254号線の内山峠を通り荒船山へ。さらに南下し、国道299号線の十石(じっこく)峠、ぶどう峠を過ぎ、長野県、群馬県、埼玉県の県境にある三国山へ。
そのまま埼玉県との県境を進み、長野県、埼玉県、山梨県の県境である甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)へ。甲武信ヶ岳は千曲川(信濃川)の源流でもある。
そして、JR小海線沿いに降りてきた分水嶺は、野辺山駅の近くにある「JR鉄道最高地点」に至る。
「JR鉄道最高地点」から、今度は南アルプスへと進む。そして、八ヶ岳連峰を北に進み赤岳、横岳をたどって蓼科山へと抜ける。
そこからは、県境を離れ長野県の内側へと向かう。白樺湖、国道152号線の大門峠を抜け、国道142号線の和田峠へ。
鉢伏山(はちぶせやま)、高ボッチ山と諏訪湖(天竜川の源流)の北側を通り、国道20号線の塩尻峠を抜け、今回の記事で取り上げた、国道153号線の善知鳥峠に至る。
善知鳥峠からは、中央アルプスに沿って南下。牛首(うしくび)峠、経ケ岳(きょうがたけ)、旧国道361号線の権平(ごんべい)峠を抜け、茶臼山へ。
そこから今度は北上し、旧中山道の鳥居峠、烏帽子岳、鉢盛山(はちもりやま)を通過する。そして、境峠、月夜沢(つきよざわ)峠を経由し鎌ヶ峰(かまがみね)へ。
鎌ヶ峰からは岐阜県との県境沿いに、野麦峠を経て乗鞍岳に至る。長野県内の分水嶺はここまでだ。
こうして見ていくと、長野県内を中央分水嶺が曲がりくねって貫いていることがわかるだろう。
このルートの北側がおもに信濃川水系をたどり日本海へ、南側がおもに天竜川水系、木曽川水系をたどり太平洋へと流れ込むというわけだ。
終わりに
今回は、“赤い看板”に導かれて(?)長野県内の分水嶺についてまとめることになったが、調べてみると、ますます興味が湧いてきた。
機会があれば、また分水嶺や水の流れについて取り上げてみたい。