長野県塩尻市の善知鳥峠にある“赤い看板”に導かれて長野県を貫く“分水嶺”を整理してみた

国道153号線を、塩尻市方面から飯田市方面に向かっていると、道路沿いに気になる看板を発見した。

“分水嶺”って何だっけ?

地上に降った雨水の“流れる方向を分ける境界”のことを“分水界(ぶんすいかい)”というが、その中でもとくに山の稜線や峠などの場所を、とくに分水嶺(ぶんすいれい)と呼ぶそうだ。

つまり、地上に降った雨はどこかの川に流れ込み、やがて海に至るわけだが「どこの海に向かうことになるのか?」その分かれ目が分水嶺(分水界)ということだ。

かんたんな模式図を作ってみた

で、ここにこのような看板が立っているということは、この場所は分水嶺なのだろうか? 看板があるのは塩尻市の善知鳥(うとう)峠。国道153号線沿いだ。

この場所が“分水嶺だとわかる何か”が近くにあるのなら見てみたいし、“善知鳥”という峠の名前も、ちょっと変わっていて気になる。ということで、あたりを調べてみることにした。

なんか怪しくね?

車で通りかかった時にはよくわからなかったが、実際にその場所に降り立ってみると、何やら怪しい雰囲気が漂っていた。

赤い看板のすぐ脇にある建物。「果物直販所(?)」と書かれた形跡が

・・・誰もいないようだ

ここはかつて、長野県内でよく見かける街道沿いの「果物の直販所」だったのだろうか? もしくは潰れてしまったドライブインのようにも見える。

どちらにしても「廃業してしまったのかな?」と思ったのだが、建物をよく見てみると店の中に続く通路らしきものがあり、奥に何かあるようだ。で、近づいてみると・・・

自販機らしきものがあった

「おお! もしかすると“レトロ自販機”があるかもしれない」と、ちょっとワクワクしてくる。

別の場所で撮影した“レトロ自販機”。現在残っているものの多くが昭和のレガシーだ

これは確認してみなければ!

建物の外からは、かんたんに内部が見えないようになっている。薄暗い通路を進むと、ほのかな明かりが辺りを照らしていた。

・・・やはり自販機があった。

電気はついているが・・・何の自販機なのだろう?

・・・これは!?

なるほど・・・

自販機は。屈強な鉄格子に囲われている

結構売れているみたいだ

すいません。気がつきませんでした

・・・少しびっくりしたが、リアルに営業中の店舗だった(果物の直販所やドライブインではなかったが・・・)ならば、赤い看板は、かつての店舗名を示すものなのだろうか?

しばし熟考する。そして「・・・もしかしてここは“大人と子どもの分水嶺”ってことか!?」と思いつくが・・・たぶん違うだろう。

閑話休題。

善知鳥峠分水嶺公園

思わず赤い看板に吸い寄せられてしまったが、よく見ると国道沿いには看板がもう1つあるのがわかるはずだ。

「善知鳥峠分水嶺公園」・・・こっちこっち。

公園の入り口に案内が立っている。

「日本海へ←分水嶺→太平洋へ」とある。やはり分水嶺のようだ

案内から一部抜粋してみよう。

善知鳥峠と分水嶺公園
ここ善知鳥峠(八八九メートル)は、本州のほぼ中央に位置しており、太平洋斜面の南へ流れる天竜川と、日本海斜面の北へ流れる信濃川との分水嶺である。
古来、この地を「水の分かれ」と呼んでいる。
※以下、一部省略

山ひだをぬうこのような地形のところを、東国の方言で「ウトウ坂(峠)」と呼ばれていることから、善知鳥の地名になったと考えられる。
また、海鳥の「うとう(善知鳥)」をこの山に葬ったことからこの地名が生まれたという伝説も語り継がれている。
※以下、省略
(文字の強調は筆者)

善知鳥峠の地名の由来の1つである、“伝説”に興味を引かれた。この話は、かつて『まんが日本昔ばなし』でも取り上げられたことがあるので、知っている人もいるかもしれない。

“伝説”のあらすじは次の通りだ。

  • 漁師の親子が善知鳥のヒナを捕まえる
  • 珍しい鳥なので、息子と一緒に都へヒナを売りに出かける
  • しかし、親鳥がヒナを取り返そうと、鳴きながら親子を追いかけ続ける
  • 道中、峠道で激しい吹雪となり漁師は息子をかばうように死ぬ
  • そこには、同じようにヒナをかばうように死んだ親鳥の姿もあった
  • 村人たちがどちらも手厚く葬って、峠にこの地名がついた

・・・と、ちょっと救われない話。

また、この話には後日談もあり、能の謡曲『善知鳥』として描かれている。こちらもざっくり内容を説明すると「漁師は善知鳥を捕まえた罪により、死んだ後も地獄に落ち苦しみ続ける」というもの。

公園内には、謡曲『善知鳥』ゆかりの地の石碑も立っていた

・・・なんとなく、暗い気分になってきた。

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