心がざわつく“気持ち悪くてかわいい”作品たち!?長野県岡谷市の「nuno*ito asobi」こと髙倉美保さん

ファッションブランドとコラボレーションする

「ブランドとコラボした経験は大きかったですね」と語る髙倉さん

子育てと内職、そして作品作りと大忙しの毎日を続けてきた髙倉さんだが、そんな日々が転機を迎える。

「2016 (平成28)年までは、内職をしつつ作品を作り続けていました。相変わらず夜も寝ないで作品を作っていたので本当に辛くて・・・こんなことを続けていていいのかな? と漠然とした不安も感じていました」そんな頃に、ある有名なファッションブランドから声がかかったそうだ。

「オーナーに『うちの生地を使って、ぬいぐるみをどんどん作って下さい』とお願いされました。つまりコラボレ—ション作品を作ることになったんです

「工賃もきちんと支払って頂いたので生活もとても潤いましたし、本当に嬉しい話でした。ブランドの素晴らしさを感じつつ制作する毎日だったのですが・・・次第に私の中でちょっとした葛藤が生まれて、その思いがどんどん膨らんでいくことになりました」

葛藤を抱えながらぬいぐるみを作り続ける事になった

つまりこういうことだ。髙倉さんはこれまでと同様に自分の個性を発揮した作品=ぬいぐるみを作る。しかしその作品は、ブランドとのコラボレーション商品としてこれまでにない規模で販売された。そのことにブランドの持つ圧倒的なパワーを感じ、自分の作品が一人歩きしていくような感覚を覚え、寂しさを募らせてしまったのだ。

「ブランドの素晴らしい生地で作品を作る喜びや、コラボレーションする高揚感。本当に興奮を感じる日々でした。ただ、作品が私から遠くに離れていってしまうような感覚に陥って・・・幸せなはずなのに寂しさが募ってしまい、作ることに対して孤独を感じるようになってしまいました」

「あと、買ってくれる人が誰なのかわからないということも想像以上に辛かった。それまでは、自分で作った作品をずっと自分で売ってきたわけで・・・やっぱり、私のことを知っている人に買ってもらいたいという気持ちも強くなっていきました」

どんな人が自分のぬいぐるみを買ってくれたのか知りたい・・・

「そんなわがままな感情が高まって、些細なことでその気持ちが溢れてしまったんです」と当時を振り返る。そして、ブランドとの話し合いの結果、しばらくコラボレーションはお休みすることになったという。

「今は3年間もの間、貴重な経験をさせていただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです。そしてこの経験が私を一段と強くしてくれたと思っています」

「それからは、ギャラリーやカフェなどで作品展をさせて頂いています」とのことで、自らも会場へ頻繁に足を運び、お客さんたちと語らう日々だという。「やっぱり、私にとっては買ってくれるお客さんとのコミュニケーションが重要なんです」

横の繋がりが世界を広げる

取材時には帽子やぬいぐるみ以外にも、さまざまな作品が展示されていた

ギャラリーやカフェを中心に長いスパンで作品展を行うようになった髙倉さん。現在ではとても忙しく充実した活動を続けているそうだ。

「ほんとに、ギャラリーやカフェのオーナーさんたちの協力のおかげです。そして、作品展を開催したお店のオーナーさんが、また別のギャラリーを紹介してくれたりして新しい繋がりも広がっています」

「まわりの人達にささえられています」と髙倉さん

そうした、“横の繋がり”の広がりは作品展の開催だけにとどまらず、ぬいぐるみや帽子以外のさまざまな作品も生み出しているとのこと。

「今は、岐阜の陶芸作家の増田豊(ますだ・ゆたか)さんの陶器の絵付けもさせてもらっています。『俺が焼いた陶器に絵を描いてみる?』と誘ってくれたんです。『髙倉さんの作り出す世界観が好きな人でも、ぬいぐるみには興味がない人もいると思うし、陶器なら日常使いしてもらえるから』と言ってくれて」

取材時にもさまざまな作品が展示されていた

陶器にも髙倉さんの独特な世界観が広がる

「陶器を作るのは、絵を描くよりもずっと大変なことです・・・造形してさらに窯で焼くわけですから。でも、増田さんは『俺の作品も髙倉さんに絵を描いてもらえれば、みんなに見てもらえて幸せだし』と言ってくれています」とのこと。

陶器が増田さんとのコラボ作品であることが説明されていた

「缶バッジを作ったのも、友達が『機械を借りたから作ってみない?』と誘ってくれたのがきっかけ。だからこれも自発的なアイデアではないんですよ(笑)」

どうやら、まわりの人達が髙倉さんの作品に魅力を見いだして、さまざまなアイデアを持って集まってくるようだ。

すべて異なるデザインの缶バッジ

「今はちょっと忙しすぎると自分でも感じていますが、私は“今この時しかない”と思って生きています。つまり、作品展にしても新しい作品のアイデアにしても、断ってしまうと相手の方の熱量はもう戻ってこないと思うんです」

「だから『お願いしたい!』と相手に言われた時にできるだけ断りたくないんです」ゆえに活動の幅がどんどん広がっているというわけだ。

そんな忙しすぎる髙倉さんを見かねて、「もう少し活動をセーブしたら?」と言ってくれる人もいるそうだが「でも、これくらいのペースで進んでいかないと、とても作品作りでは食べていけないので」とキッパリ。

さまざまなデザインのTシャツも展示されていた

髙倉さんの現在の制作スタンスは、基本的に作品は売るために作っており、売れたら新しい作品を作るということを繰り返しているということだ。

「私の場合、作品が売れないと次の作品が作れないんです。制作費の関係もあって(笑)。でも、どんどん新しい作品を作りたくなっちゃうので、どんどん買ってもらわないと困る・・・みたいな感じですかね(笑)」

しかし、買ってもらわないと困ると言いつつも、あまりビジネスライクに販売するのも嫌なのでは? と聞いてみると「そうなんですけど、売れないと・・・もうやめたほうがいいのかな? と落ち込んでしまうんです(笑)」という。

「作りたくないとかじゃなくて、売れないのならもうやめたほうがいいのかな? というのは・・・本当にいつも思います。だから、なんかいいバイトないかなぁ? みたいなこともよく考えますね(笑)」

「そりゃあいろいろ悩みますよ」と髙倉さん

好きなものを作って、それを売って生きていくということはとても素敵なことだが、同時にとてつもなく大変なことだ。その気持ちはとてもよくわかる。

「息子がどこかで私の職業を聞かれた時に『お母さんは無職です』と答えたことがあって・・・確かにちょっと無職っぽいかもしれないけどさ(笑)。お母さんが無職に見えるの!? って問い詰めたら、『見えるよ。だってずっと家にいるじゃん』とか言われて。家にいてもやってるでしょう!? アンタはお母さんの背中を見てるの!?(笑)」と、かつてそんなやり取りもあったそうだ。

このようにいろいろと思うところはあるようだが、創作意欲はまったく衰えないそうで「もうね、100円ショップに行ってもすべての商品が材料に見えてくるわけですよ(笑)。これはちょっと病気ですね」と笑う。

さまざまな作品が展示されることによって独特な世界観が構築される

当面は過密スケジュールであることもじゅうぶんにわかった上で、小さくまとまらずにいろいろなことにチャレンジしてみるということですよね? と伺うとこう答えてくれた。

「そうですね。やってみないとわからないし、見えないことがたくさんあると思うんです。作品が売れるということはとても大切なことですが、それとは関係なくやってみたいことも増えている・・・ならば、やってみるべきだと思うんです

これからどんな新しい作品が生まれてくるのだろうか?

「あと作家が、自分の活動をこと細かにSNSとかにアップして知ってもらおうとすることって、あまり好まれないとは思うんです。わかってはいるんですけど・・・私は書き込みが多めです(笑)。そこには、自分が何を思ってどのように作品を作っているのか・・・そのすべてをみんなに知ってもらいたいという気持ちがあります」

「なぜなら、作品だけを好きになってもらうのではなくて、作家のキャラクターも全部ひっくるめて好きになって欲しいと思うから(笑)」

終わりに

日常と相まみえながらも、常に自然体であり作品作りを決してあきらめることなく続けてきた髙倉さん。その戦いはこれからも続くが、喜びにあふれている。そんな姿をお伝えできたと思う。

筆者が取材時に見つけたお気に入りは、不遜な態度の「なるようになるんじゃね?」くん(※勝手に命名)

プロフィール

  • nuno*ito asobi 髙倉美保
    長野県岡谷市出身・在住 1973年うまれ
    高校卒業後ニット会社に就職(企画課所属)結婚し子どもを授かるまで12年間勤務
    ちいさい頃から、絵を描くこと、何かつくること、が好きでした。
    頭が小さかった息子に着古したTシャツでハンチング帽子を作ってあげたり、Tシャツで、ぬいぐるみを作ってあげたり、そこから、つくること。がスタートしました。
    離婚を経験し、より自分らしく進んでいきたい。と思い、家族や、いろいろな方々に助けられ、息子の成長、自分の成長、とともに、つくること。も成長してきました。
    日々、つくること。つくれること。に感謝して、毎日、毎日、進んでゆきます。
    webサイト instagram

取材協力

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